心の調律師のような音楽。アルゼンチンのパラナ河を拠点に創作活動を続ける孤高の天才音楽家、カルロス・アギーレが自身のグループを率い吹き込んだ記念すべきファースト・アルバム。アルバム1枚1枚に、手描きの美しい水彩画を封入した愛溢れるハンドメイドジャケット。雄大な川の流れをイメージさせる、清らかなピアノの響きと、魂に語りかけるような神秘的で穏やかな歌声が、心の奥に深い安らぎと潤いをもたらしてくれます。オーガニックなサウンドの中に、地球の鼓動や宇宙の息吹を感じる哲学的な作品。
私が初めてカルロス・アギーレの音楽を知ったのは、今から約7年前、私が敬愛する選曲家/音楽文筆家である、吉本宏さん(resonance music)から送っていただいた選曲CD『bar buenos aires vol.one 20100122』を聴いた時からでした。そのCDの6曲めに収録されている「Los Tre Deseos De Siempre」という曲を聴いたとき、私はあまりの美しさにしばらく言葉を失ってしまいました。それは今まで聴いたことのない、既存のジャンルには当てはめることの出来ない、切なくも心地よい旋律でした。その音楽は、はじめて聴いたはずなのに、なぜかとても懐かしく感じられ、心の奥を優しく撫でられるような、安らぎに満ちたものでした。
2010年1月にスタートした、吉本宏さん、河野洋志さん、そして森音のCDフェアでも大変人気の高いコンピレイションCD『Quiet Corner』を手がける、HMV山本勇樹さん三人が主宰する、アルゼンチンや世界の素晴らしい音楽を楽しむ選曲会「bar buenos aires」が火付け役のひとつとなり、カルロス・アギーレの音楽は全国に広まっていくようになりました。2010年、そんな「静かなるムーヴメント」をきっかけに、ついには入手困難なカルロス・アギーレ・グルーポのファースト・アルバム『クレーマ』が、国内盤でリリースされることになりました。その記念すべきアルバムを製作・指揮を取られたのが、森音のCDフェアでは、いつも大変お世話になっている東京渋谷にあるレコード会社、インパートメントの稲葉ディレクターです。稲葉さんの並々ならぬ努力の末に実現した、カルロス・アギーレのCDリリース、そして奇跡の来日公演の様子が『dacapo』(http://dacapo.magazineworld.jp/music/37615/)で紹介されています。稲葉さんの音楽への愛と熱意が、じんわり伝わる素晴らしい記事です。皆さんもぜひご覧になってみてください。
稲葉さん曰く、アギーレさんのCDは、どれもジャケットが完全ハンドメイドのため出回る量がとても少ないことで有名だったそうです。今回ご紹介する『crema』にしても、タイトルと同じ「crema = クリーム色」の特殊な紙を使い、さらにその真ん中に繰り抜かれた小さな窓からは、1枚1枚手描きの水彩画(つまり全てが違う絵であり、違うジャケットになる)が見えるというとても特殊なもの。国内盤化にあたり、音楽だけでなくジャケットを含めて1つの作品である、という彼の意志を尊重することが何よりも大切と考えた稲葉さんは、それを忠実に再現することにしました。 まずは紙の専門店を訪ね、店員さんの協力を得て同じ質感と量感の紙を購入。会社に急造した作業場で、カルロス・アギーレの音楽を愛する有志のみなさんとともに1枚ずつ切り、ミシン目を入れて、窓を繰り抜く、という作業をひたすら行ったそうです。封入される手描きの水彩画は、オリジナル盤と同じくアルゼンチンの女流画家、パメラ・ビジャラーサさんに依頼。パメラさんは、アギーレさんの作品のためなら労は厭いません、と快諾してくれ大量の水彩画を日本に送って下さったそうです。最後に、ジャケット、水彩画、ブックレット、オビ、CD盤、ケース……とバラバラのパーツを組み立て、最後に包装しお店へ出荷。ここまで時間と手間をかけ、そしてたっぷりの愛情を注ぎ込んで作られているアルバムジャケットを、私は他に知りません。
配信で手軽に音楽が手に入る今、カルロス・アギーレのこだわりを受け継ぎ、パッケージにもこだわりぬいて製作された、アルゼンチン現代音楽史上の残る傑作『クレーマ』。カルロス・アギーレの言葉「音楽は人と人との出会いの可能性をひろげるもの」を座右の銘にしているという、稲葉ディレクターの熱い想いが込められたこのアルバムを、ぜひこの機会に多くのみなさんに聴いていただけたらと心から思います。
---本日のBlog、いつもと違う雰囲気で始まりました。
おはようございます。森音です。「音楽のフェア」は初日を無事に終え、本日二日目の朝を迎えております。
上の文章は、フェアを主宰してくれているじゅりちゃんが書きました。
『クレーマ』、何度も聴く機会がある名盤ですが、実はまだ持ってないんですよね。でもこの文章を読んで、やっぱり今回こそは、お気に入りの絵を選んで買おう!と思いました。カルロス・アギーレさんの慈愛と優しさに満ちた雄大な音楽、私たちの暮らすこの土地にとてもよく馴染みます。いつか北海道に来てくれたら・・と熱望しているファンや、来日の時にはぜひ札幌へ!と強く望んで行動を起こそうとしている人もいます。いつかそんな日がやって来て、また新しい繋がりや音楽の輪が広がりますように。
カルロス・アギーレさんやbar buenos airesというキーワードで繋がった音楽の仲間や広がりがたくさんあります。実際に、こうして毎回フェアのたびにお世話になっているインパートメントの稲葉さんとのご縁も、その輪の中にあると言っていいでしょう。稲葉さんと言えば、森音が一度カフェを閉める時のフェアには助っ人で来てくれて、そういえば、本日紹介した『クレーマ』の水彩画をジャケットとバラの状態で持参して、購入された方にその場で封入作業をしてくれるといったプレゼント企画を用意して来てくれたのでした。あれは嬉しかったな。
音楽のフェアでも過去何度も取り上げて、もうすでにたくさんの思い出や思い入れのあるこの作品、これからも長く語り継がれる名盤の一枚であることは疑いの余地がありません。わたしからも強く推薦します。
下の写真は、稲葉さんのSNSからシェア。水彩画はこうして届くのですね。美しい音楽を包む素晴らしいパッケージ。ほんと、音楽っていいですね!
